●はじめに
この文章は、かつて「なんでレポートなんてつまらないものがこの世にあるのだろう」と長いこと思って暮らしていながら、ついに「文章を読み書きすることが仕事」になってしまった清水の、「1000本以上のレポートを読み、汚い字で添削した」経験に基づく文章です。
・必ず全部読んでください。
・私の主張を採用するなら、すべてに従ってください。
途中だけを読み、また、私が言っているある部分だけを採用し、「清水先生がこんなことを言ってました」といって、私の定義するところの「丸写し」レポートを出すようなことは決してしないように。
●「丸写し」の定義
(1) 教科書その他の資料(ネットで配信されているもの、先輩から回ってきたものも含む)を、完全に写したもの。
(2) いくつかの資料を組み合わせ、単に並べただけのもの。(1つの資料だけの並べ替えも含む)
(3) (1)および(2)の、「語尾をいじる」「単語をいじる」「文章をつなげる(又は切る)」などといった手法で単に改ざんだけしたもの。
(4) (1)〜(3)の語尾に「と私は考える」などと付加しただけ(またはそうとしか取れない)のもの
●清水が「丸写し」を上記のように定義した背景
おそらく、このように明言すると「(1)はしかたがないにしても、(2),(3)は、いくつかの資料を組み合わせたり、文章を変えたりしているのだから丸写しではない」とのご指摘をいただくのではないかと思います。採点方法の詳細を公開するわけにはいけませんが、基本的に減点法だと思ってください。減点対象の一つである「誤字脱字」が生じる確率は、原稿作成のやり方ごとに一定であると仮定すると、
レポートカテゴリー |
手間 |
文章や内容の誤り |
(1) 一本丸々移したもの |
少 |
少 (元の資料の誤りのみ) |
(2) いくつかの資料を組み合わせたもの |
| |
| (重複書写、論点のずれなど) |
(3) 語尾をいじったもの |
多 |
多 (↑+日本語的な誤り) |
といっていいでしょう。これが何を意味するかというと「減点対象となりうる部分が、手間の少ないものの方が少ない」のです。(最も手間のかからない、秘技「ネットコピペ」や奥義「フロッピー回し」が最高の評価をもらえることになります。)今までの経験上、内容を噛み砕かずに単に日本語をいじっただけのものには、以下の特徴があります。
★内容が間違っている ★意味が理解できなくなっている ★添削すると元に戻る
辞書によれば、
【書写】 (1)書き写すこと。 (2)小・中学校国語科の科目の一。文字を正しく書くことを学習する。
【編集】一定の方針のもとに、いろいろな材料を集めて新聞・雑誌・書物などを作ること。
です。したがって、どんなに沢山の資料を組み合わせようと、「一定の方針」が示されない限りは「単なる書写」(またはいくつかの書物の書写)にすぎないのです。
また、例えば「生活習慣病の予防が大切であると私は考える」とか、「対策をもっと講じる必要があると考えた」などのように、「資料に書いてある大切なポイント」だけを「考えた」と書いて終わりにしてしまう方が結構な割合でいます。これも、本当にそう考えていたとしても、「語尾の改ざん」以外の何者でもありませんので、残念ながら「皆さんが考えたこと」と判断できないばかりか、「他人が考えたことをさも自分が考えたことのように詐称した」と判断されてしまいます。(知的所有権の見地からいきますと、この行為の方が罪は重いといえるでしょう。)
●ここだけを抽出してほしくない一言ですが、あえて書きます。
「どうせいろいろな資料から文章をいただくなら、潔く写してください」
理由は、★で示したとおりです。しかし、何も考えずに写したものは書写以外の何者でもありません。ですから、以下の2つの境界線に注意していただき、「書写でもパクリでもない」レポートを書いて欲しいのです。(皆さんが感じていらっしゃるように、「単に語尾をいじる」、「何も考えずに文章を組み合わせる」などの行為を行ったとしても、皆さんの実力養成の役には全く立たないと断言します。)
●編集と書写の境界線
先に述べたとおり、「一定の方針の元に文章を作ること」が「編集」です。ですから、レポートを書くときに最初にやらなければいけないことは、『このレポートの編集意図を示す』ことです。言い換えるなら、「これからの文章は単なる書写ではなく、きちんと意図を持って編集したものである」と読み手が理解しやすいように説明する必要があるのです。
以前に、「何故、このような書き出しにするのかが不明」と添削してレポートを返却したら、後になって質問状という形で「私は〜〜のつもりで書きました」とクレームがついたことがありました。その際学生さんに対して「後になって〜〜のつもりで書きました、というのではなく、最初からレポートに書くべきです」と返答したのですが、実は責められるべきは学生さんだけではありません。私も最初から「何故、このような書き出しにするのかをきちんと明確にしないと読み手に意図が伝わりません」とするべきでした。
気をつけて書いているつもりでも、書いた文章に複数の解釈が出来る場合があります。「こう書けば、相手はきっとこう判断してくれるだろう」との甘えがあると、解釈のしようによっては反対の意味に取られる可能性も十分にあります。ですから、相手にどう考えて欲しいのかをきちんと文章にし、「読み手にガイドラインを与える」のが大切になります。
もう一つ必要なのが『示した編集意図に沿って書く』ことです。例えば、「○○が大切だと思うので、××について述べる」と意図を示したとします。その後に、確かに「××に関すること」は書いてあるのですが、「その文章を読んでも、○○が大切だとは思えない」のでは、編集意図に沿って書いたとはいえません。○○が大事というのであれば、○○の大切さが解る文章を持ってこなければいけないのです。これがそろってはじめて「編集されたもの」と判断することができるのです。
●パクリと意見の境界線
残念なことに、『書いてあることが「○×が大事と私は考えた」だけ』であるなら、
・「○×が大事」と書いてあるから書いたのか?
・様々な資料を読んだ上で最終的に「○×が大事」と考えたのか?
読み手は区別することが出来ません。前後の文章から「後者である可能性が高い」と好意的に読むことが出来るものも確かにあるのですが、「論理的な文章とは、相手が読んで素直に解るもの」ですので、高く評価することは出来ません(完全なパクリよりはマシといったレベルです)。
したがって、皆さんの意見であることを明確に読み手に伝えるために、『どのような経緯で自分はそう考えたのか?を丁寧に述べる』必要があります。例えば「書籍を読んで」とか「〜という体験を通じて」とか「○×さんから悲惨な状況を聞いた」とか、いろいろ皆さんがそう考えるまでに目にしたものは様々でしょう。しかし、「皆さんが目にしたものを読み手も見たとは限らない」のですから、読み手本位になって「少なくともこのくらいのことを知っていれば、書いたことが理解できる」ところまで、情報を書く必要があります。(たとえば書籍の名前を書いたり、人の名前を書いたりしだけで、読み手がその事情を理解できる思ったら大間違いです。)
また、『具体性を持たせて書く』ことも必要です。よく教科書などの資料に書いてあることを沢山かき集めたレポートを見ることがあるのですが、沢山書いたからといって評価が上がるわけではありません。「何故、そうすることが必要なのか?」、「どうやったらそれを実現することができるのか?」などを具体的かつ丁寧に書かなければ、「書いただけで放置されている」としか判断できないのです。
●レポートの具体的な書き方
1) 読み手を「先生」から「クライアント」に切り替え、「親切、丁寧に」と自分に言い聞かせる。
自分がレポートを提出しなければいけない立場だったとき、常に思っていたことは「どうして自分よりも知識のある人間に、こんなことを書いて提出しなければならないのだろう」でした。おそらく、皆さんもレポートを書いている最中は「先生なんだから、このくらい知ってて当然」とか、「先生なんだから、そのくらい書いてある文章から読み取れて当然」という気持ちが強いと思います。
しかし、「先生なんだから…」なる考えが根底にあると、文章がとても不親切になる傾向が強くなります。「説明不足」「急激な話題転換」「跳躍論理」などのオンパレードとなって、「何を言いたいのか文章に書いてあることだけでは理解できない」ものが出来上がることがよくあります。本当に「そこに書いてあることが理解できない」のであれば教員としての資質を疑われても仕方が無いと思いますが、本来レポートは「それを読んだだけで内容が理解できるもの」でなくてはなりません。教員ならば知識と経験から読み手の意図するところをくみ取ることも可能ですが、テーマに関する知識を持たない人(特に将来のクライアント)には無理です。近年「説明責任」が追求されることがよくありますので、「自分の言いたいように(自分本位に)」ではなく、「相手が理解できるように(相手本意に)」表現する訓練をしなければなりません。
したがって、レポート作成に当たる際は「クライアントにテーマについて説明するんだ」と気分を毎回新たにすることをおすすめします。「相手(読み手)本位の表現方法」は、レポートのためではなく、社会に出てからの様々なシーンで役に立つはずです。
2) テーマに沿った内容に関するポイントを探す。
まず、教科書の該当部分を読んでみてください。漫然と読むのではなく、与えられたテーマに沿った「ポイント」を探して欲しいのです。ここでいう「ポイント」とは、「問題点」、「要点」、「利点」、「欠点」などです。教科書だけで足りなければ、インターネットや図書館などで様々な資料を見るのもいいでしょう。
3) ポイントに関する自分の意見から丁寧に書く
ポイントが見えてくれば、おのずとそれに対して意見が出てくるはずです。大半の方は7枚程度書いてから「まとめ」を書いているのでは無いかと思いますが、この書き方だと「8枚に収めるために」丁寧さが無くなって何を言いたいのか理解できなくなってしまいます。したがって、まずは意見(まとめ)の部分から丁寧に書いてください。そうすれば、紙面の都合を気にすることなく「私の考えたことはこれなんです!」と読み手がすんなりと理解できるように伝えることができます。
また、沢山のことを盛り込もうとすると、自分でも何を書いているのかわからなくなってしまうことがあります。意見をいくつか言いたい場合は「一つの話題を完結させてから、別の話題に移る」癖をつけてください。
ただし、意見だからといって何でもいいわけではありません。「クライアントの立場に立っているか?」を常に考えてください。
4) 自分の意見を他人に理解してもらうために必要な文章で肉付けをする
意見を述べるにあたり、必然的に専門用語が出てくるはずです。その専門用語を読み手が知っているとは限りません。自分が主張したいことを読み手が理解するために必要な文章を、適宜適切な部分に補っていき、肉付けをしていってください。
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